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【連載】LEADERS SESSION~トップが語るリテールの明日~

ChatGPTやGeminiなどの生成AIが急速に生活に浸透するなか、マーケティングの現場では生活者の「買い物の仕方」がどのように変わるのかに注目が集まっています。
これまで消費者は、自ら検索し、複数の商品を比較・検討しながら購買を決定してきました。しかし生成AIの普及によって、そのプロセスの一部をAIが担うようになりつつあります。さらに将来的には、AIエージェントが利用者に代わって商品選定や購入を行う世界も現実味を帯びてきました。
こうした変化を受け、マーケティング業界では「AIDMA」や「AISAS」に代わる新たな購買行動モデルが次々と提唱されています。
今回は、最新の調査データや新しい購買モデルを整理しながら、AI時代にブランドやマーケターが向き合うべき変化について考察します。
今年2月に、NTTドコモ モバイル社会研究所、日経クロストレンドとマクロミルがそれぞれ行った調査によると、国内の生成AIの利用率は51%、48.3%と約半数。前年の2025年2月時点の利用率が27%、2025年から使い始めた人が58.4%いることを踏まえると、この1年で急速に浸透していることが見て取れます。


年代別に見ると10〜20代が最も多く、プライベートでは7割近い方が生成AIを利用。伸び率では、30代以降の世代で倍以上の増加が見られ、若年層から徐々に幅広い世代へ利用が広がっていることが確認できます。

また、日常生活における生成AIの利用頻度について、今年2月の内閣府消費者委員会事務局による調査では、週に数回利用する人が過半数を超えています。1日の利用時間は、日常生活においては1時間未満という方が9割以上となっています。

商品やサービスを選ぶ際、情報収集や比較検討をするために生成AIを活用すると回答した人の割合は、日経クロストレンド・マクロミルの調査では62.5%、2025年9月のブレインパッドの調査では50%と、生成AIの用途として大きな存在感を見せています。
さらに、ブレインパッドの調査によると、「商品の購買検討において、生成AIをどのように利用しますか?」という問いに対し、「漠然としたニーズから、具体的な商品候補をさがすため」が58.4%、「購入前の疑問や不安な点を解消するための相談相手として」が53.3%と回答されており、2025年9月時点で、すでに生成AIが商品購買の際のパートナーとしての立ち位置を築き始めていたことがわかります。

日経クロストレンド・マクロミルの調査でも、商品・サービス選びに際して生成AIを使う理由(複数回答可)として、「自分に合う選択肢を知りたい」「追加で質問したり、壁打ち相手のように相談したかった」「第三者の意見がほしい」などが上位に挙げられています。
内閣府消費者委員会事務局による調査では、商品・サービスについての生成AIへの信頼度は、とても信頼しているが5.5%、ある程度信頼しているが46.2%となっていて、過半数は一定の信頼を置いているようです。

これらの調査結果から、生成AIを活用している人にとっては、AIとのコミュニケーションが買い物の起点になり始めていると言えそうです。
ちなみに、電通による2025年11月の第4回「AIに関する生活者意識調査」では、AIにオススメされて商品を購入したことがある人は、まだ26.3%に留まっていますが、こちらも若年層では3分の1を超えてきていることから、生成AI活用の広がりと共に高まっていく可能性があります。

このような変化を受け、マーケティング業界では従来の「AIDMA」や「AISAS」に代わる、新しい購買行動モデルが次々と提唱されています。
代表的なモデルの1つが、2025年1月に博報堂買物研究所が発表した新しい購買行動モデル「DREAM」です。これまでの「自分で検索して比較・検討する」スタイルから、「AIエージェントと協働し、対話を通じて決める」形へのパラダイムシフトを体系化しています。
具体的には、以下の5つのプロセス(循環型ループ)で構成されています。
Dialogue(対話):AIとの日常的な対話から、自分でも気づいていない潜在ニーズを発見する。
Recommended(推奨):AIから価値観に沿った的確な提案を受け取り、直感と融合させて絞り込む。
Experience(体験):実店舗での試用に加え、VRやAR等のバーチャル技術も活用して使用感を多角的に疑似体験する。
Assurance(確信/承認):リアルと仮想空間を行き来して適合性を検証し、納得した段階でAIを通じて購入する。
Management(管理):購入後の使用履歴や生体情報をAIが管理・学習し、次回の対話へ知見を循環させる。
博報堂買物研究所によると、生活者とAIエージェントが共存していくことで、これまで以上に豊かで充実した購買体験が実現すると考察されています。

続いて、日経クロストレンドが2026年2月の調査結果をもとに、先月、AI時代の新・消費者購買行動モデルとして提唱した「AICAS」です。
こちらも5つのプロセスで構成されており、概要は以下になります。
Ask(相談):生成AIに尋ねて、AIが候補の絞り込みを代行する
Interest(興味):生成AIが推奨・提案してくる3~4個の候補に興味を持つ
Confirm・Check(確認):興味を持ったものを確認する
Action(購買):実際に購買
Share(共有):口コミ・評判をAIが収集し、第三者評価として推奨する材料に
従来は人が参考にしていた口コミやレビューが、今後はAIによる商品推薦の判断材料としても活用されることを示しています。

書籍『AIに選ばれ、ファンに愛される。変わる生活者とこれからのマーケティング』佐藤尚之著(日経BP、2025年12月発売)でも、消費者購買モデルの変化について説明されています。
具体的には、AIDMA(Attention、Interest、Desire、Memory、Action)やAISAS(Attention、Interest、Search、Action、Share)は、Actionより前のプロセスが全てAIに置き換わり、「AIA」「AIAS」というように購買決定ギリギリまでAIが関与するとのことです。
従来の購買行動モデルでは、生活者は自ら検索し、多数の選択肢を自ら比較しながら意思決定を行っていました。しかしAI時代には、生活者が最初に接触する候補そのものをAIが絞り込むようになります。
加えて、AIが生活者のレビューや購買動向、生活者のニーズを繰り返し学習していく(循環)ことで、より精度の高いコンシェルジュへと成長していきそうです。
AI購買に関する海外(米国)のトレンドは、2026年に入り「理想から現実的な社会実装」へと進展しています。
その象徴が、米OpenAIが発表した「ChatGPT」上から消費者がECサイトの商品を直接購入できる「Instant Checkout(インスタント・チェックアウト、即時決済)」計画の戦略転換です。同社は2026年3月、複雑な税制対応や購買心理の壁を理由に、チャット内で高度な商品探索・比較を行い、既存のECアプリへトラフィックを誘導するモデルに舵を切り直しました。
Adobe Digital Insightsが2026年4月中旬に発表したデータでは、小売ECサイトへのAI経由の流入は前年同期比で393%増加。AI経由での流入トラフィックは昨年9月に非AI経由と逆転し、42%高いコンバージョン率を記録しています。さらに、1訪問あたりの収益(RPV)は非AIトラフィックに比べて37%高く、オンラインショッピングにAIを利用している消費者の79%は、AIアシスタントを利用した後の購入について「より安心感を持てる」と回答しているとのことです。

AI購買を巡る動きは他にも。
Googleは、生成AIを活用した購買アドバイザー機能を全面的に強化し、ユーザーの曖昧な意図を汲み取りながら自社のショッピング網や提携ECサイトへとシームレスに誘引する検索プラットフォームとしての進化を急いでいます。また、AIエージェントが消費者に代わって購買関連のタスクを実行する新標準プロトコル「Universal Commerce Protocol(UCP)」をShopifyと共同開発しているとのことです。
これに対し、Amazonは、買い物アシスタントAI「Rufus(ルーファス)」のアップデートを加速。ユーザーがGoogleやOpenAIなどの外部AIに触れる前に、Amazonのアプリ内で「相談から決済まで」を完結させる囲い込み戦略を強めています。
決済インフラを握るVISAやMastercardも、AIによる自動購買を前提とした次世代のセキュリティ認証網の整備に動いています。
こうした動きから、AIエージェントによる本格的な代理購買の開始にはまだ時間を要しそうなものの、海外ではすでに、AIが購買行動の入口として機能し始めており、日本でも同様の変化が広がっていく可能性があります。
生成AIに買い物の相談をすると、ニーズに応じて3〜5程度の商品候補を提示してくれます。条件を細かく伝えれば、優先順位を付けて推奨してくれ、非推奨のアドバイスをしてくれることも珍しくありません。
この変化は、マーケターにとって重要な意味を持っていると思います。
従来は、検索結果の中で競合と比較されながら選ばれることが重要でした。しかしAI時代には、そもそもAIが提示する候補群の中に入っていなければ比較検討の土俵に立てない可能性があります。
まず求められるのは、「AIに推薦されるブランド」になることです。生成AIは信頼性の高い情報源や専門性のあるコンテンツを参照して回答を生成するとされており、高品質なコンテンツの発信や分かりやすい情報設計の重要性は今後さらに高まるでしょう。
一方で、AIに選ばれるだけでは十分ではありません。
書籍『AIに選ばれ、ファンに愛される。変わる生活者とこれからのマーケティング』の中で、佐藤尚之氏は「AIルート」と「ファンルート」という考え方を提示しています。AIが推奨するブランドになることに加え、生活者から直接指名されるほどのファンベースを構築することが重要だという考え方です。
FEZ MAGのインタビューでも、池田紀行氏が2030年までに想起の順位を上げておく(第一想起を取っておく)ことや、「あえてこれがいい」と思ってもらえるだけのプレファレンス(消費者が特定の商品を他より好む傾向)を獲得することの重要性を指摘していました。また、島川基氏は「トラスト(信頼)」や「感情資産」の重要性について語っています。

実際、AIが強みを発揮するのは、スペック比較や条件整理といった合理的な意思決定領域です。一方で、「あえてこのブランドが好き」「このブランドを応援したい」といったブランドへの信頼・愛着・共感・好みといった自身の個性やアイデンティティ、信念などに基づく感情的な選択は、依然として人間の領域として残り続けるでしょう。
つまりAI時代には、論理的価値はAIに評価され、感情的価値は生活者に評価されるという二層構造が生まれる可能性があるのではないでしょうか。
さらに、AIが生活者との接点を担うようになったとしても、実際に何が売れたのか、どのような購買行動につながったのかを把握する重要性は変わりません。むしろ、AIによる推奨が一般化するほど、実際の購買データなどをもとに生活者理解を深める価値は高まっていくでしょう。
テクノロジーの進化によって購買プロセスが変化しても、顧客を理解し、信頼を築き、選ばれる理由をつくるというマーケティングの本質は変わりません。AI時代は、その本質が改めて問われる時代なのかもしれません。
・内閣府消費者委員会事務局「生成AI利用者の利用実態に関するアンケート結果(速報)」
・博報堂買物研究所「買物フォーキャスト2025」「買物フォーキャスト2026」
・NTTドコモ モバイル社会研究所「2025年-2026年 生成AI利用意識・行動調査」
・日経クロストレンド、マクロミル共同調査「買い物における生成AIの利用実態調査」
・ブレインパッド「商品の購買検討における生成AI利用実態調査」
・ネットショップ担当者フォーラム 海外のEC事情・戦略・マーケティング情報ウォッチ
・書籍『AIに選ばれ、ファンに愛される。変わる生活者とこれからのマーケティング』佐藤尚之著(日経BP、2025年12月発売)