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メーカー様を取り巻く環境が激変する中、従来のマーケティング手法の限界を指摘する声が高まっています。特に、小売様の店頭における販売戦略は大きな転換期を迎え、多くのマーケティング担当者が新たな活路を模索しているのではないでしょうか。
こうした中、注目を集めているのが「トレードマーケティング」です。
本シリーズでは、書籍「トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践」(2024年2月、宣伝会議)の著者であるフェズの井本悠樹にインタビュー。3回にわたって、トレードマーケティングの本質から、2025年に起きた市場の変化、そしてブランド成長に不可欠な実践ノウハウまでお伝えしていきます。
トレードマーケティングとは? ―対象者のインサイトに基づく「売れる仕組み作り」
―初めに、トレードマーケティングとは何か教えてください。
トレードマーケティングとは、一言で言うならば、メーカーの小売店に対する販売活動をマーケティングとして実践する、ということです。
マーケティングという言葉自体が曖昧な概念なので、皆さんあまり理解されていないこともあるかと思います。マーケティングには様々な定義がありますが、要約すると「対象者のインサイトを言語化もしくは定量化して、それに基づく戦略を作り、売れる仕組み作りをしていく」ことだと解釈できます。そして、その「対象者」が変わると、マーケティングの領域も変わるのです。
―対象者のインサイトを理解し、売れる仕組みを作ることがマーケティングの核である、ということですね。
はい。対象者が「思わずこれを買ってしまう」「これが欲しい」と感じる心のメカニズムを理解し、それを戦略に活かすことがマーケティングの本質です。
このインサイトの対象は、商品を消費する「消費者」に限りません。例えば、BtoBの取引、まさにトレードマーケティングがそうですが、商品を自分で消費するわけではない「バイヤー」の方々にも、「この商品を仕入れて売りたい」と思わせるメカニズム、つまり「バイヤーインサイト」が存在します。
―なるほど。消費者だけでなく、バイヤーにもインサイトがあると。
これは私が作った造語なのですが、この「バイヤーインサイト」に基づいて売れる仕組み作りをしていくのが、トレードマーケティングです。
さらに、店頭にいらっしゃるお客様を「ショッパー」と呼びます。ショッパーが思わず商品を手に取ってしまうような、「欲しい」というニーズを喚起するためのメカニズムが「ショッパーインサイト」です。このショッパーインサイトを活用するのが「ショッパーマーケティング」です。

―対象者ごとに、異なるマーケティング領域が存在するのですね。
メーカーのマーケティングは大きく3つに整理できます。
1つ目は、消費者の「欲しい」と思うメカニズムである「消費者インサイト」を用いる「ブランドマーケティング」。
2つ目は、バイヤーの「欲しい」というメカニズムである「バイヤーインサイト」に基づく「トレードマーケティング」。
3つ目は、店頭でのショッパーの「欲しい」というメカニズムである「ショッパーインサイト」を扱う「ショッパーマーケティング」です。
私が提唱している広義のトレードマーケティングは、このうち狭義のトレードマーケティングとショッパーマーケティングを合わせたものと定義しています。
―それぞれのマーケティングには、具体的な戦略や戦術があるのでしょうか。
はい。マーケティング戦略を戦術に落とし込む際には、フレームワークとして「4P」が一般的に使われます。ブランドマーケターは、消費者インサイトに基づき、「プロダクト(Product)」「プライス(Price)」「プレイス(Place)」「プロモーション(Promotion)」という4Pで売れる仕組みを作っています。
同様に、トレードマーケティング(ショッパーマーケティングを含む)にも、バイヤーやショッパーを起点とした4Pが存在します。
つまり、メーカーの中には、消費者視点で作られるブランドマーケティングの4Pと、バイヤー・ショッパー視点で作られるトレードマーケティングの4Pの、双方が存在しているのです。これが、マーケティングの定義から戦略へと落とし込んだ際の全体像になります。
PBの台頭とコスト高騰。2025年、メーカーが直面した危機的状況
―2025年を振り返って、トレードマーケティング界隈ではどのような変化がありましたか? 最近、お問い合わせが増えている背景についてもお聞かせください。
フェズのクライアント企業に多いFMCGメーカー様、中でも食品メーカー様において、この1〜2年で如実に変わったのがPB(プライベートブランド)の存在です。PBが爆発的に増えたことで、マスブランドが非常に戦いづらい状況になっています。
もう一つは、小売店側の経営環境の変化です。2024年の物流問題や光熱費の高騰などにより、小売店の販管費が上昇しました。その結果、経営の視点が「効率化」に明確に移行しています。
―小売店の効率化は、メーカーの販促活動にどう影響したのでしょうか。
例えば、労務効率を上げるために、これまでできていた店頭でのオペレーションや施策ができなくなる、といったケースが出てきています。
PBの影響と合わせて、マスブランドの商品の配荷が取りづらくなっている。そして、店頭での販促活動そのものが通用しなくなってきている。この2点が、この1〜2年の大きな環境変化です。特に2025年は、その動きが顕著でした。
こうした状況の中で、メーカー様が「今までのやり方では通用しない」と痛感し始めたのが2025年だったのだと思います。
―課題がより深刻になったということですね。
はい。実は以前、3年ほどかけて約40社にトレードマーケティングの重要性を伝える無料の啓蒙活動を行っていました。その時の土台もあったと思いますが、直近課題がより深刻になったことで、初めて「この課題を解決するのがトレードマーケティングなんだ」と認識していただけるようになったのだと感じています。
課題自体は昔から存在していました。しかし、以前はそこまで危機的な状況ではなかったため、手元の方法論で乗り切ることができていたのです。
しかし、この1年で、PBの増加や販促の形の変化といった課題が、もはや危機的な状態になった。そこに対して「トレードマーケティング」という解決策が見えてきた。顕在化した課題と、顕在化した打ち手が合致したからこそ、今、注目が集まっているのだと思います。
―時代の要請と、解決策の認知が重なったのですね。
そうですね。トレードマーケティングという概念の認知が広まれば、この市場は自動的に大きくなるという手応えを非常に感じています。
この傾向は食品・飲料業界に限りません。他の業界でも、営業担当者がこれまでのリベート等の手法では商品を配荷できなくなったり、「本来はデジタル施策を優先したいが、テレビCMを入れないと店頭に並べられない」といった本質と逆行した状況が生まれたりと、営業部署・マーケティング部署ともに、これまでのやり方の限界が露呈し始めています。このことからも、業界全体で、トレードマーケティングの重要性が増していくと考えています。

2年後に来る大きな波。Z世代が「子育て世代」になるインパクトとは
―今後のトレンドについて、詳しくお聞かせください。
私は、2年後くらいに、トレードマーケティングのニーズが最も明確に顕在化するタイミングが来ると予測しています。
―2年後ですか。それはなぜでしょう?
鍵を握るのは「Z世代」です。現在、Z世代の最年長は29歳です。そして、日本人の平均初産年齢、第一子が生まれる年齢は31歳というデータがあります。つまり、あと1年半から2年後には、Z世代が本格的に「子育て世代」になるのです。
―Z世代が子育て世代になることが、なぜそれほど大きなインパクトを持つのでしょうか。
子育て世代というのは、小売店にとって喉から手が出るほど欲しい顧客層だからです。購入点数が多く、LTV(顧客生涯価値)が高い。そして、同じ店に頻繁に通うため、店舗へのロイヤルティも高まりやすい。非常に優良な顧客層です。
その優良顧客層が、Z世代になる。彼らは、相対的にマスブランドだけでなく、オンラインの情報などから自ら気に入った商品を探して見つけ、買うことが当たり前の世代です。
彼らが子育て世代になった時、これまでのように「いつもお店にあるマスブランド」を買いに行くだけではなく、「自分が好きなヘアケア」「自分が好きな洗剤」を能動的に選んで買う傾向も顕著になってくるでしょう。
そうなると、「どういう品揃えをすれば、主要消費世代となるZ世代が自分たちの店に来てくれるのか?」という議論が、メーカーだけでなく小売店側でも当たり前に起こるようになると想定しています。
―なるほど。今はメーカー様側からの動きが中心ですが、今後は小売様側からのニーズも高まっていくと。
はい。小売店側からのニーズが加わることで、この動きは加速度的に大きくなるでしょう。マクロ環境を考えると、この2年で大きな波が来ることは間違いないと思っています。
―今の子育て世代と、Z世代の子育て世代とでは、購買行動にどのような違いがあるとお考えですか?
Z世代の購買における特徴的な点は、良い商品であれば、高くてもきちんと価値を認めて購入することです。
もちろん、毎日使うような日用品は安いものを求める傾向は変わらないでしょう。コモディティ商品は安くていい、と。しかし、自分のための買い物や、子供のための買い物に関しては、こだわりを持って投資するはずです。
例えば、子供のためにより肌に優しい、高価なオムツを選ぶかもしれません。あるいは、自分のためのスキンケアや化粧品にかける金額も増えるでしょう。Z世代がドラッグストアなどに来店する頻度が増え、落とすお金の量が増える中で、より高単価な商品が買われる環境になるのではないかと予測しています。

なぜブランドの成長にトレードマーケティングが不可欠なのか
―最後に、メーカー様の視点から、ブランドを成長させるためにトレードマーケティングがなぜ不可欠なのか、その理由を改めてお聞かせください。
先程、ブランドマーケティングとトレードマーケティングそれぞれに4Pが存在するという話をしました。ここで注意しなければならないのは、これらの4Pの役割分担です。
ブランドマーケティングの4Pはブランドマネージャーが、トレードマーケティングの4Pは営業が担う、という単純な話ではありません。
実は、トレードマーケティング領域の4P、例えば小売店向けの企画品や専売品の開発、リテールメディアの活用、販促物の作成などを、ブランドマネージャーが担っているケースが非常に多いのです。
しかし、ここに難しさが生じます。ブランドマネージャーは、必ずしもショッパーやバイヤーのインサイトを深く理解しているわけではありません。そのため、どうしても「消費者起点」でコミュニケーションや商品開発、販促物を設計してしまいます。
―消費者視点だけでは、うまくいかないのでしょうか。
うまくいかないケースが頻発しています。分かりやすい例を挙げましょう。「ブランドのシェアを上げることは、常に正義か?」という問いです。
ブランドマネージャーからすれば、自社ブランドのシェアが10%から12%に上がれば、それは素晴らしい成果です。しかし、トレードマーケティングの観点では、これは「条件付きの正義」でしかありません。
―条件付き、ですか。
例えば、シェアを奪った相手が自社よりも高単価な競合商品だったとします。他社の高単価商品から自社の安価な商品にシェアが移った場合、自社ブランド単体で見れば売上は伸びて嬉しいかもしれません。
しかし、小売店のバイヤーはカテゴリー全体で売上を見ています。この場合、カテゴリーの平均単価が下がり、結果としてカテゴリー全体の売上を下げてしまうことになります。
そうなると、一時的にそのブランドは良く見えても、長期的には「このブランドはカテゴリーに貢献していないからカットしよう」と判断されかねません。
―バイヤーの視点が抜け落ちていた、ということですね。
その通りです。このようなことを繰り返していると、小売店からのサポートは得られなくなります。メーカー主導で、消費者視点だけで商品を作り、語り続けた結果、PBに代替されてしまう。それは、PBと同等の役割しか果たせない商品しか作れなかった、あるいはPB以上の価値を伝えられなかった、ということの裏返しでもあります。
ブランドマネージャーが、トレードマーケティング領域のデザインを正しく行うためには、このバイヤー視点、ショッパー視点が不可欠なのです。
―では、ブランドマネージャーはどうすればよいのでしょうか。
ブランドマネージャーは、自身がトレードマーケティング領域の4Pを担っているという事実をまず認識すべきです。その上で、バイヤーがどういう視点でブランドを選定しているのか、ショッパーがどういうメカニズムで店頭で商品を購入しているのか、といったインサイトを深く理解する必要があります。
その理解があれば、彼らが作る企画品や販促物といったアウトプット自体に、バイヤーやショッパーが「選びたくなる理由」が付加されます。
消費者視点だけで作られた4Pは、もはや通用しません。役割を超えてトレードマーケティングの視点を持つこと。それこそが、今の時代にブランドを成長させるために、明確に求められていることなのです。
第2回は、「『トレードマーケティング』のABC(何からやればよいですか?)」をお届けします。お楽しみに!
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