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「既存ブランドの棚を維持したい」「保守的なバイヤーさんに企画を通したい」「小売さんとの取り組み会議が形骸化している」・・・
シリーズ最終回となる今回は、FEZ MAGの読者やセミナー参加者から寄せられた「トレードマーケティング」に関するリアルなお悩みから、代表的な3つをチョイス。書籍『トレードマーケティング 売場で勝つための4つの実践』(2024年2月、宣伝会議)の著者であるフェズの井本悠樹が答えます。
▼前回までの振り返りはこちら
売れない理由を隠さない。バイヤーの「売れる期待感」を醸成する戦略
―1つ目のご質問は、FMCGメーカーでトレードマーケティングを担当されている方からです。「既存ブランドの売上、棚維持のためのトレードマーケティング戦略の立て方を教えてください」とのことですが、いかがでしょうか?
これは、現在のビジネス状況によって立て方やポイントが大きく変わるので、ここでは既存ブランドが苦戦しているという前提で考えてみますね。
おそらく質問者の方の意図として「既存ブランドの配荷が厳しくなっているので、なんとかしたい」「棚割り会議で、商品を定番に残したい」があると推察します。その状況においては、まずやるべきことは、「その商品がうまくいっていない理由をちゃんと見つけ、言語化すること」です。
―うまくいっていない理由、ですか。
はい。メーカーさんの棚割り商談においては、なんとか定番に残すために「売れていない商品を、どうにかして売れているように見せる」という工夫が、非常によく見られます。実はこれは、必ずしも得策ではありません。
この工夫では、ABC分析でいうCランクのものを、なんとかしてBランクに見せようと努力するわけです。でも、バイヤーは「この商品は売れていないな」という感覚を持っています。また、もし持っていなかったとしても、他メーカーから「この商品は売れていない」という情報を聞くわけです。
メーカーさんから見ると意外と気づきにくいのですが、いつも多くのメーカーが「自社調べ」で自社に有利な「売れる根拠」「売れた事実」などを提示してくるため、バイヤーは半信半疑でメーカーの提示する根拠を捉えることが多々あります。例えばこのケースだと、「あ、絶対に売れてないのに、都合の良い売れている根拠を見つけたんだな」と分かってしまう。
―では、どうすればいいのでしょうか。
CランクのものをBランクだと言い張るのではなく、「なぜ今売れてないのか」その原因を消費者インサイトやショッパーインサイトに基づいて説明することが重要です。
例えば、「ブランドの認知はあるけれど、店頭での視認性が弱く、見つけてもらえていないんです」とか。あるいは、「商品は良いと伝わっているけれど、価格が高くて最後の一押しができていないんです」といった原因を突き止めます。原因が分かれば、次の一手が見えてきます。
店頭の視認性が弱いのであれば、定番売り場で視認性を高めるサイネージを入れたり、アテンションステッカーをビビッドなものにリニューアルしたりする。
価格がネックになっているのであれば、「返金保証キャンペーン」を導入して、購入のリスクを下げてあげる。
要するに、売れない商品に対して「売れます」というロジックを作るのではなく、売れない理由を明確にし、そのための「売れる施策」を提案するんです。
そうすると、今売れていないという事実が、「理由がはっきりしているから、こうすれば売れるかもしれない」というバイヤーの期待感に変わるわけです。
これは小売さんが「売りたいか」「売れるのか」という判断軸のうち、「売れるのか」という部分にアプローチする考え方です。売れると信じられないものに対して「いや、実は売れてるんです」と言っても意味がない。それよりも「売れていないものを、このようにして売れるようにします」と伝えるほうが、売れる根拠は強くなります。

―トレードマーケティングの領域では、他にどんなことができますか?
トレードマーケティングが直接アプローチできるのは「ショッパー」です。ショッパーには「ショッパージャーニー」というものがあります。来店前(Pre-purchase)から店内(In-store)、購入後(Post-purchase)というステップです。

特に店内においては、「入店直前・直後/立寄り・通過」「ストップ(視認)」「ホールド(検討)」「クローズ(購入)」というステップで考えることができます。
バイヤーさんは元々、店舗スタッフとしてこうした店頭のコミュニケーション作りをずっとやってきた人たちです。ですから、「店頭での視認性に課題があるから、アテンションステッカーを付けないといけないんです。だから売れるんです」というようにお客様ベースのコミュニケーション設計を語ると、「なるほど、売れるかもしれないな」という期待感が高まります。
売れていない理由を消費者インサイト、ショッパーインサイトをベースに明確にし、そこに対する打ち手を提示する。これがまず1つです。
―「売りたい」と思ってもらうためには、どうすればいいでしょう。
「売りたい」という心理的な動機をどう作るかも大事です。メーカーは「セルイン(小売への納品)」にしか興味がない、とバイヤーが思っている中で、「中長期でブランド育成することをコミットします」と言えるかどうかが大きな違いを生みます。
メーカーの「売る」は、小売の「買う」です。小売さんは、仕入れた商品が売れると思わなければ仕入れません。

ですから、メーカー側が「ちゃんと売れるようにブランド育成をしますよ」という姿勢、例えば今後1年間の投資プランや新商品の構想を見せることで、小売側は安心して買うことができる。この安心感が、心理的な販売動機に繋がります。
苦しい商品であっても、こうしたプランを提示することで、棚を維持し、前向きに検討してもらえる可能性が出てくるでしょう。
保守的なバイヤーの心を動かす「2つの懸念」の解消法
―続いて2つ目の質問です。「バイヤーさんがすごく保守的で、なかなか新しい企画提案が通りません。どうすればよいでしょうか?」というお悩みです。
これはまさに心理的な課題の話ですね。提案が通らないとき、皆さんは提案内容の良し悪しを気にしがちですが、むしろバイヤーさんがどういう状況に置かれているのかを考えるだけで、打ち手は変わってきます。
メーカーさんから見ると、バイヤーさんは全てを決めている権力者のように見えるかもしれません。しかし実際は、社内の様々なステークホルダーの板挟みになりながら意思決定をしています。重要なのは、バイヤーは必ずしも全ての承認者ではない、ということです。上司である商品部長や本部長が承認者であり、実行するのは営業部という別の主体者がいます。
―バイヤーさんの立場を理解することが第一歩なのですね。
はい。その上で、新しい企画が通らない理由として2つ挙げます。
1つ目は、「店舗での実行可能性や再現性」への懸念です。商品部長レイヤーとなると、全ての店舗でちゃんと企画が実行可能か、を考えています。バイヤーから起案された企画が「実行が難しい/リスクがありそう」「店舗に負担をかけそうだ」と判断されると、バイヤーは部長から承認は得られません。そのため、バイヤーが社内承認を得るためにも、皆さんの提案に対する「店舗の実行可能性やリスク」も、意思決定の考慮材料になっているのです。
2つ目は、「説明責任を果たしにくい」という懸念です。バイヤーは、自分が買い付けた企画について、営業部に対して説明する責任があります。月1回行われる会議などで、「なんでこれ買い付けたんだ」「これ、以前も売れなかったじゃないか」と追及されることもある。この説明が難しい、反論されそうだと感じる企画は、そもそも採用しづらいのです。「この企画の成功事例はないのか?」と聞かれるのは、まさにバイヤーが説明責任を果たすための根拠を欲しがっているサインなのではないでしょうか。

―2つの懸念を払拭するには、どうアプローチすればよいのでしょうか。
店舗の実行可能性がネックなら、例えば「主力店舗だけでもラウンダーを派遣するので、立ち上げの負担はありませんよ」と伝えたり、販促物をあらかじめ商品にセットしておき、店舗側で設置する手間をなくしたりする方法があります。説明責任の観点では、バイヤーの代わりに営業会議に向けた説明資料を1〜2ページ作ってあげるだけでも、非常に助かります。
このように、提案が通らない原因がどこにあるのか、バイヤーの意思決定プロセス全体を見渡して課題を探り、それに応じた打ち手を講じることが重要です。
―なるほど、バイヤーさんに寄り添う姿勢が大切なのですね。
もう一つ付け加えると、バイヤーは「独自成果」を欲することが多くあります。なぜなら、バイヤーの予算達成如何は、ある意味でメーカーの「気合と根性」にかかっているからです。No.1メーカーが大きく伸びてくれれば予算は達成できますが、そうでなければ自分がどれだけ頑張っても、なかなか予算達成は遠い。そのため、分かりやすい貢献点として、「自らの意思で成果を出したこと」を求めることがあるのです。
だからこそ、「バイヤーさんの成功例を一緒に作りましょう」というスタンスで新しい企画を提案すると、モチベーションのタガが外れて、一緒に踏み込んでくれるようになる可能性もあるのではと思います。
“点”の羅列で終わらせない。取り組み会議を成功に導く“コト”の提案
―最後の質問です。「小売さまとの取り組み会議でうまく議論ができない」という課題です。具体的には、「会議では合意したように見えても、その後の実行がなかなか進まない」「そもそも商談の場で自分ごと化してもらえない」といった声が寄せられています。
これもよくある課題ですね。原因は、参加者のレイヤー(役職)と、提案する取り組み課題のレイヤーが合っていないことにあります。

例えば、商品部長と商品本部長では、役職名は似ていますが、見ている範囲が全く違います。具体的には、
・商品部長=担当カテゴリーの粗利や売上(トップライン)を見ている
・商品本部長=販管費も含めたPL全体を見ている
・社長=経営全体、株主への影響なども視野に入れている
というように、レイヤー(役割)によって、範囲・関心事が異なります。
メーカー側が提案する内容が、相手の関心事とズレているケースが非常に多いのです。
例えば、「サプライチェーンの改善」という販管費に関わる話は、営業本部長や社長には響きますが、商品部長にとっては自分のミッションと直接関係ありません。逆に「専売品」の話は商品部長には刺さりますが、社長から見れば粒度の小さい話になってしまう。
このようにレイヤーが合っていないと、「現場でやっておいて」ということになり、自分ごと化されず、実行にも至らないのです。
―では、どうすればレイヤーを合わせることができるのでしょうか。
個別の商品や施策といった「モノ」を売るのではなく、「コト」を売るんです。
例えば、あるチェーンがSM(スーパーマーケット)業態で苦戦しているとします。これは商品本部長クラス以上が責任を持つ大きな課題です。その原因を分析し、「若年層の集客がボトルネックになっている」と突き止めたとします。
ここで提案すべきは、個別の商品ではなく、「若年層の集客に向けた課題解決を一緒に目指しませんか」という大きな方向性、つまり「コト」の提案です。
―まず大きな課題解決の方向性で合意する、ということですね。
その通りです。提案した「コト」に商品本部長が合意してくれれば、初めて議論が前に進みます。その上で、課題を解決するための「戦略」をいくつか提示します。例えば、「週末に子供が楽しめる場を作りましょう」「こだわりの強い世代に向けた高品質な品揃えをしましょう」といった戦略です。
この戦略レベルで合意が取れれば、それを実行するための「戦術」として、「はじめて」自社の商品や施策を提案していく。例えば、「体験学習ができる場を提供します」「弊社の高品質な輸入品を武器にしませんか」といった具体的なソリューションです。
商品本部長のようなハイレイヤーの方々は、個別の施策という「点」の話をされても自分ごと化しにくい。彼らが抱える大きな課題を提示し、その解決策(コト)で合意し、その上で具体的な手段(戦術)を議論する。「コト」の提案によって「点」を繋いであげることが、取り組み会議を成功させる上で非常に重要になります。
現場の課題は、一つとして同じものはありません。しかし、その根底にある原理原則は共通しているのかもしれません。
読者の皆さんのブランドでも、同じような課題はありますか?今回の回答が、解決のヒントになれば幸いです。

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